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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)1072号 判決

控訴人(原告) 東光商事株式会社

被控訴人(被告) 関東信越国税局長

訴訟代理人 田中勝次郎 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対してなした別表記載の各審査決定はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、別紙控訴理由書及び準備書面記載のとおり陳述し、被控訴代理人において、別紙準備書面記載のとおり述べたほかは原判決事実の部記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所は控訴人の本件各請求を理由がないと認めるものであつて、その理由は左記を附加するほか原判決のそれと同様であるから、ここに原判決の理由を引用する。

附加する点は次のとおりである。

一、所論は本件の場合優待金の支払を受ける株式譲受人(以下単に甲株式譲受人という)は、控訴会社との間で営業書案内(甲第一号証の一)記載の株主優待金を取得する契約の下に株式の譲受代金を支払つて株主となるもの、即ち本件優待金支払の発生原因たる法律関係は控訴会社と甲株式譲受人との間の附帯契約によつて発生したものであつて、控訴会社の株主権にもとずいて当然発生したものではない。とし、この点に関する原判示には事実誤認の違法があると主張するのであるが、前記引用の原判決の認定した事実関係並びに成立に争のない甲第一号証の一ないし三を総合するときは、本件株主優待金等の支払を受ける者は株式譲受代金とは別に二重に掛金の払込をするわけでなく、株式引受人の支払つた株式代金を観念上払込んだ掛金額に見立て形式的に殖産無尽類似の契約関係を設定せんとする外観を装うに過ぎないとも認めることもできるからこれを実質的に考察して株式譲受代金として支払つた金額は株主としての出資元本従つて本件優待金等は右出資元本に対する支払金であると観じ得ないでもない。さすれば所論の指摘する「控訴会社が株主に対して支払つた本件優待金等が株主であるという理由によつてその持株の額面額に応じて支払われているものである」との原判示も不当であるとはいえない。

二、しかしながら原判決理由二と三との間には控訴人が指摘するような理由のそごはない。即ち原判示二は結局その説示する理由により「本件株主優待金等は株主が株主であり、控訴会社から融資を受けないという理由のみにより他には何等実質上の理由なくしてその持株数に応じて支払を受けているものというべきである」とし「右のような性質を有する本件株主優待金の支払は控訴会社の純資産を減少する方法による株主に対する実質的な利益の供与というべきであり、これは法人税法上控訴会社の所得を計算する際には控訴会社の利益処分として益金に計上するのが相当である」と判示し、原判示三は「本件株主優待金等の支払が前示二に説明したような性質を有する以上、それが税法上の利益配当にあたらないとしてもこれを益金に算入することは不当でない。」と説示しているのであるから、その理由の説示に欠けることなく、右見解は正当である。

もつとも原判決は本件株主優待金等の支払は税法上株主に対する利益の配当にあたるか否かについて判断をしていないけれども、もともと税法上の利益配当にあたるか否かということと、法人の所得計算上益金とすべきか否かとは自ら別個の問題であるから、前者の判断の有無は結局原判示二の判断に影響を及ぼすものでない。

なお所論は控訴会社が前示にいう甲株式譲受人から、株式の譲渡によつて会社本来の営業たる金融業の継続を可能ならしめる資金獲得のための経済的利益を供与されており、本件株主優待金はこれに対する反対給付たる金銭的対価であるとして、この点に関する原判決理由二、中段以下の「融資を受けないということが、控訴会社に対し何らかの特別な営業上の利益を与えており控訴会社としてこれに対し何等かの対価を与うべきものということはできない」との判示を批難するが、その前段に説示する理由並びにその経済的利益というも結局実質上株式代金そのものの受入による資金獲得に外ならない点に鑑み、右原判示は不当でない。

三、所論は法人税法第九条等の規定を援用して、本件株主優待金等の支出が資本の払戻以外において控訴会社の純資産を絶対的に減少する場合であつて、法人税法上このような支出を損金に算入しないという明文なき以上これを以て総損金を構成すると解すべきであるというのである。しかし法人税法第九条第二項以下に別段の明文を以て総益金または総損金に算入するとか、しないとかを定めているのは、総益金、総損金の解釈のみでは十分賄いきれないと思われるものについて益金又は損金になるべきものを明らかにしたものであつて、もとよりかかる明文あるものはこれら規定に則るべきも、その明文のないものは原則的な解釈基準によるべく、本件株主優待金等の支出が原判示の性質を有するものである以上それが控訴会社の純資産の減少をもたらすものであつても損金に算入すべきものでないと解すべきである。

控訴人その他の主張は被控訴人の主張に対する反論であるから、この点の判断を省略する。

したがつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本謁夫 中村匡三 荒木秀一)

(別表)

事件番号

事業年度

更正決定 年月日 額

審査請求 年月日 額

審査決定 年月日 内容

控訴人主張の所得額

株主優待金等

30(行)62

20期

26.10.1

27.3.31

29.6.1

3,137,183

29.6.28

△646,527

30.4.23

一部取消(注2)

△514,897

1,420,214

21期

27.4.1

27.9.30

同上

9,268,636

同上

2,535,621

同上

同上(注3)

3,000,201

3,108,996

31(行)109

22期

27.10.1

28.3.31

21.12.13

4,068,300

30.1.13

△206,325

31.8.10

棄却

816,625

4,290,779

32(行)26

23期

28.4.1

28.7.30

31.4.18

6,664,954

31.5.8

1,104,284

32.1.14

同上

1,197,569

5,940,260

24期

28.10.1

29.3.31

同上

5,970,666

同上

735,409

同上

同上

857,181

5,769,557

25期

29.4.1

29.9.30

同上

1,967,156

同上

△2,930,133

同上

同上

△2,857,333

5,029,095

33(行)193

26期

29.10.1

30.9.30

31.10.27

11,967,022

31.11.24

4,678,860

33.9.29

同上

4,857,032

7,788,162

注1.金額の単位は円、△印欠損。

注2.所得905,317円と認定。

注3.所得6,882,020円と認定。

控訴趣意書

控訴人 東光商事株式会社

被控訴人 関東信越国税局長

右当事者間の昭和三十五年(ネ)第一、〇七二号所得審査決定取消事件につき、控訴人は左の通り控訴理由を陳述する。

第一点

原判決が「原告会社が株主に対して支払つた本件優待金等は、株主が株主であるという理由によつて、その持株の額面額に応じて支払われているものである」との判示は事実を誤認した違法がある。

控訴会社は原判決、事実、第二、請求原因、三、(一)(1)乃至(6)に摘示しているとおりの組織方法で株主間の相互金融を事業目的とする会社であり、その事業内容は第一次として、会社は必要に応じ株式を発行しこの株式を或る特定人をして一括引受させ、第二次として、控訴会社は甲第一号証の一の営業案内を一般に公知せしめて前記株式の譲受の希望者を募集し、これに株式の買受けを斡旋するのである。この場合本件の優待金の支払を受ける株式譲受人(以下単に甲株式譲受人という。)は、営業案内記載の株主優待金を取得する契約のもとに株式の譲受代金を支払つて株主となり、控訴会社からの融資を希望する株式譲受人(以下単に乙株式譲受人という。)は、株式額面の三倍を限度とする融資を受ける契約のもとに株式を譲受けて株主となるのである。

かように商法上の増資手続によつて発行された株式について、その所有者たる特定人の株式を控訴会社はその代理人として、唯譲受希望者との間において株式の譲渡契約を斡旋代行すると同時に、この附帯契約によつて控訴会社は、甲株式譲受人に対しては一定金額の優待金支払の債務を負い、乙株式譲受人に対しては株式額面金額の三倍を限度として融資をなすの義務を負うのである。

従つて本件優待金支払の発生原因たる法律関係は、甲株式譲受人と控訴会社との間において特定人の所有株式を譲渡するに当つて控訴会社と甲株式譲受人との間の附帯契約によつて発生したものであつて、控訴会社の株式自体に固有した株式権に基いて当然発生していたものではない。詳言すれば、株式所有者たる特定人の代理人としての控訴会社が甲株式譲受人と株式を譲渡する契約と控訴会社が甲株式譲受人に対し本件優待金の支払をなす契約とが同時に締結されるのである。換言すれば、甲株式譲受人は控訴会社との間に優待金の支払契約が成立したから株主となつたのであつて、株式となつたから優待金支払の請求権が発生したのではない。

この理由は同一の株式譲受人であつても乙株式譲受人には優待金支払の請求権はないこと、控訴会社は契約上の義務として利益の有無にかゝからず本件優待金の支払義務があることによつて明瞭である。

原判決がこれ等の事実関係を認めながら、優待金の支払が持株の額面額に応じて支払われていること、優待金の受取人が株主たる地位と一致しているという結果のみに重点を置いて判断したため、その支払原因たる法律関係を無視して、「株主が株主であるという理由によつてその持株の額面に応じて支払われているものである」と判示したのは、事実を誤認した違法な判決であるといわねばならない。

第二点

原判決は、本件優待金の性質について、理由二、中段以下に「従つて融資を受けてないということが、原告会社に対し何らかの特別な営業上の利益を与えており原告会社としてこれに対し何等かの対価を与うべきものということはできない……そうすると、本件優待金等は株主が株主であり原告会社から融資を受けないという理由のみにより、他には何らの実質的な理由なくしてその持株に応じて支払を受けているものというべきである」と判示し、更に「右のような性質を有する本件株主優待金等の支払いは、原告会社の純資産を減少する方法による株主に対する実質的な利益の供与というべきであり、これは法人税法上原告会社の所得を計算する際には、原告会社の利益処分として、益金に計上するのが相当である」と判示して、本件優待金の支払いは株主に対する実質上の利益の配当であるから、原告会社の所得計算上総損金を構成しないと判示しながら、理由(三)において「本件株主優待金等の支払いが商法上適法な手続による利益配当でないことは明らかであり、これを商法上或は税法上利益配当というべきであるか否かは困難な法律問題があるから結論をしばらく措くとして、右にいうような意味における利益配当に当るか否かということと、法人の所得計算上益金とすべきか否かとは自ら別個の問題であり、前項に説明したような性質を有する本件優待金の支払いは、利益配当でないとしても、これを原告会社の利益処分として益金に算入することが不当であるといえないものと解する」と判示したのは審理不尽、理由齟齬の違法がある。

即ち判示前段は、本件株主優待金は甲株式譲受人が控訴会社に対しこの支払を受くるに足る何等の経済上の利益を与えてなく、又他にこれを支払うべき理由がないのに、株主が株主であるという理由だけでその持株に応じて控訴会社の純資産を減少する方法において実質的な利益を供与したものと事実を認定したのであるから、この理由からは、本件優待金の支払が商法上の配当でないとしても税法上は利益の配当に該当する。従つて法人税法上は控訴会社の利益処分において支払われたと解すべきであるから、総損金を構成しないと判示しなければ理由と判決とが一致しない。然るに判示後段において「税法上利益配当というべきであるか否かは困難な法律問題があるから結論をしばらく措くとして」と本件株主優待金の支払が税法上の利益の配当に該当するか否かの判断をしないまま「利益の配当に当るか否かということと法人の所得計算上益金とすべきか否かとは自ら別個の問題である」とし「利益の配当でないとしてもこれを原告会社の利益処分として益金に算入することが不当であるとはいえない」と判示したのは理由と判決とが齟齬しているばかりでなく、利益配当でないとしても何故税法上利益処分としなければならないかの理由が明にしていない。

およそ法人税法上株主に対する利益の配当が総損金を構成しないのは、株主の利益配当請求権に基いて支払われるから利益処分となすべきであるとの解釈に基くものであつて、本件の場合のように優待金の支払が偶々株主に支払われたという事実のみからは控訴会社の所得計算上総損金を構成しないと結論することはできない(詳細は第三点参照)。換言すれば利益処分として益金に算入することが相当であると判示するには、あくまで税法上の利益の配当である理由を明確にしなければならないのに、この判示のないのは審理不尽の違法あることは明かである。

本件優待金の性質についての判示は、前述のように甲株式譲受人が控訴会社に対しこの支払を受くるに値する何等の経済的利益を与えていない、即ち融資を受けないということが控訴会社に対し何らかの特別な営業上の利益ではないと認定しているが、控訴会社の株主相互金融の営業組織は、事実二、(一)に摘示しているように、必要に応じ増資する株式は増資に当つて広く大衆から株式を募集するのではなく、一先ず特定の者に一括引受け払込ましめ、而して該払込金は特定人に貸付ておき、第二次的に融資希望者と投資希望者とを一般大衆から募集し、投資希望者と増資払込者たる特定株主との間の株式譲渡契約による譲渡代金を控訴会社が受取り、株式売却者たる特定株主に貸付けた債権を返済せしめ、これを反覆継続して漸次融資資金を獲得して融資希望者たる乙株式譲受人に貸付けるのである。斯くの如くして投資希望者と融資希望者とを調整し、株主間において互に金融の目的を達する組織であるから、若し控訴会社が利益の有無に拘らず一定金額の本件株主優待金を支払う契約がないとすれば、投資希望者たる甲株式譲受人は株式の売買に応じないために、融資希望者たる乙株式譲受人があつてもこれに融資する資金は潤沢であるとはいい得ない。従つて強いてこれに応じようとすれば、控訴会社は他から金利を支払つた借入金で融資資金を充当しなければならない。

かように甲株式譲受人の株式買受けによる代金の支払いは控訴会社の業務たる株主相互金融を遂行するための根幹をなすもので、乙株式譲受人の融資の申込に応じ金利収入の目的を達することのできるのは一にかゝつて投資希望者たる甲株式譲受人があるからであつて、控訴会社はこれがために借入利子の支払を免れて尚金融事業の継続を可能ならしめる経済的利益を有し、この利益の対価として一定金額の優待金を支払うのであつて、本件優待金の支払原因たる経済理由を融資申込権抛棄に対する謝礼金といつても、奨励金といつても又その実質が貸付金に等しいから利子の性質を有するといつても、それは単に見解、表現の相違であつて、控訴会社がこれら甲株式譲受人から株式の譲渡によつて経済的利益を供与されており、本件優待金がこれに対する反対給付たる金銭的対価であることは明白な事実であるから、判示が「融資を受けないということが原告会社に対し何らかの特別な営業上の利益を与えており、原告会社としてはこれに対し何等かの対価を与うべきものということはできない」として控訴会社の主張を排斥したのは審理不尽であるか又は第一点と同様事実誤認であるか何れかであつて、違法な判決であることは明かである。

第三点

原判決は理由末尾において「本件株主優待金の支払の原因は株式会社と株主との関係に基くものであつてみれば、その株主の持株に応じた支払金を利子ということはできないし、融資申込をなさない、代償として支払われる金銭又は資金獲得のため支出される金銭を必要経費とは解し難く、他にこれを税法上必要経費と解すべき事情の認められない本件ではこれを損金に計上することは適当ではないと解する」と判示したのは、法人税法第九条第一項の解釈を誤つた違法がある。本件優待金が株主たる地位即ち株式配当請求権に基いて支払われたものでないこと、又この優待金の支払いは控訴会社が甲株式譲受人から受ける経済的利益の対価として支払われたものであることは第一点、第二点において陳述したとおりであるが、仮りにそうでないとしても、原判決が本件優待金の支払いが税法上の利益の配当であるとの判示に基かないで唯その支出原因たる経済的理由のみから控訴会社の所得計算上必要の経費と認め難いと判示して控訴会社の主張を排斥したのは、法人税法第九条第一項の解釈を誤つた違法の判決であることは疑の余地がない。

法人税法第九条第一項は「内国法人の各事業年度の所得は各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と規定しただけで、法人税法のどこにも総損金とは法人に経済的利益の供与を受けた対価として支出したものに限るという趣旨の規定はないからである。

即ち法人税法第九条の立法趣旨は、法人なる組織体の営利企業団体たる本質に鑑み、一切の営利活動は悉く法人の目的遂行のために集約して行われるという見解のもとに、法人の事業活動の結果として、当該事業年度に新たに増加した純資産を原則として法人の課税標準たる所得として課税する建前であつて、唯その取引が本質上純益金総損金であつても、課税上これを総益金、総損金とすることが租税目的に照らして適当でないと認めた場合に限つて明文をもつて総益金又は総損金に算入するとか又はしないとかいう具体的例外的規範を列挙的に定めているのである。従つて法人の純資産を減少する取引であつてその取引の結果が当該事業年度の純資産を絶対的に減少している場合であり、且つ総損金に算入しないとの明文がない事項は、その経済的効果の如何に拘らず法第九条第一項の総損金を構成すると解さなければならないのである。これが法第九条第一項の「法人の各事業年度の所得は各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と抽象的規範を定めた立法の趣旨である。

故に所得税法における個人に対する事業所得の計算の場合のようにその支出が必要の経費であるか否かを判断することは不必要であるばかりでなく、判示のように解することは違法であるといわねばならない。

本件優待金の支出が甲株式譲受人に現金で支払われ控訴会社の純資産を絶対的に減少させていることは疑の余地がない事実であり、法人税法上このような支出を損金に算入しないという制限規定のないことも明らかであるから、判示のように必要の経費であるか否かを判断するまでもなく、法第九条第一項の総損金として総益金から控除した控訴会社の計算の適正なることも明白である。況んや第二点に陳述したように本件優待金の支払いが控訴会社にとりこれを支出する経済的利益があるので、当然総損金を構成するに於ておやである。

何れにしても原判決は法人の課税標準たる所得の計算方法が個人のそれと根本的に異り、本件優待金の支出が資本の払戻以外において法人の純資産を絶対的に減少する場合であつて、法人税法上損金に算入しないとの明文がなく且つ利益の配当に該当しないときは原則として総損金を構成すると解釈せねばならないとの法人税法第九条第一項の解釈を誤つた違法の判決である。

準備書面

控訴人 東光商事株式会社

被控訴人 関東信越国税局長

右当事者間の昭和三十五年(ネ)第一、〇七二号事件につき、控訴人提出の控訴趣意書に対し、被控訴人は次の通り陳述する。

一、控訴人の控訴理由第一点について

控訴人は、第一点において、原判決が本件優待金は「株主が株主であるという理由によつて支払われたものである」と判示している点を捕えて、これを非難して「控訴会社が甲株式譲受人に対しては一定金額の優待金支払の債務を負い、(中略)従つて本件優待金支払の発生原因たる法律関係は、(中略)甲株式譲受人は控訴会社との間に優待金の支払契約が成立したから株主となつたのであつて、株主となつたから優待金の請求権が発生したのではない」と主張して、控訴人は本件の場合優待金は株主となる以前から会社には優待金支払の義務が発生しているにも拘らず原判決は「株主であるという理由によつて支払われたものである」と判示しているのは事実を誤認した違法があると主張しておるようであるが、会社に甲株式譲受人に対して優待金支払義務が発生したのは(仮りに支払義務が発生したとしても)甲株式譲受人が株主となる前であるか、それとも株主となつた後であるかということは本件優待金が会社の経費であるかどうかを決定する基準とはならない。

何となれば、会社の支出が会社の経費であるかどうかの問題は会社の事業を遂行するために必要な経費であるかどうかによつて決せられるのであつて、会社が第三者が株主となる以前から負担していた支払義務であるかどうかによつて決せられるものではないからである。故に例えば或る第三者が会社に物品を納入したためにこれに対して代金支払義務が会社に発生したあとで偶々この第三者が会社の株主となつたからといつて、この代金支払義務が会社の経費即ち損金たる性質を失うものではないことは当然である。何となれば、納入品の代金支払義務は会社の事業遂行上必要な経費であるからである。しかるに控訴人はこの理論をわきまえず、本件の場合は株主となる以前から優待金を受くるの権利を獲得しているから、これを支払うことは会社の経費であると論じ、恰も債権者が会社の株主となる時期の前後によつてこの債権者に対する会社の支払が会社の経費となるや否やを区別することができるかの如く論じているのは了解に苦しむものである。それのみでなく、或る人が株主となる以前において会社から無償で金銭の交付を受くる権利が株主以外の第三者に発生することは考えられない。何となれば、自然人であれば利害問題をはなれて例えば個人間の愛情によつて他人に無償で財物を贈与することもあり得るが、営利会社である控訴会社のようなものが株主以外の人に無償で会社財産を交付することはあり得ないからである。従つて本件の場合でも株主たらんとする人に株主となる以前に無償で金銭を贈与することは考えられない。従つて株主とならんとする人に仮りに何等かの約束があつたにしても、若し株主となつたならばこれこれの優待金を支払うと約束するだけであつて、停止条件付契約にすぎないのであるから、株主となる以前に支払義務が発生することはない。従つてこれらの点からするも原判決に何等事実の誤認はない。なお控訴会社の営業案内等で一定金額の優待金を支払う旨を宣伝したのは事実であるが、このことによつて直ちに会社に優待金支払義務が発生したのでは勿論なく、単に株式譲受斡旋方の申込を誘引したにすぎないのであつて、大衆がこの宣伝ビラを読んで譲受斡旋方を申込んだときはじめて契約の申込があつたわけであるから、控訴人がいうように株主となる以前に優待金支払義務が控訴会社に発生したものではなかつた。

二、控訴人の控訴理由第二点について

控訴人は、第二点において、原判決は本件優待金の支払は株主に対する実質的な利益の供与であるから、原告会社の利益処分として益金に計上するのが相当であると判示しておきながら、理由三で原判決が「これを商法上或は税法上利益配当というべきであるか否かは困難な法律問題があるから結論をしばらく措として、利益配当に当るか否かということと法人所得計算上益金とすべきか否かとは自ら別個の問題であり、仮りに利益配当でないとしても、これを原告会社の利益の処分として益金に算入することが不当であるとはいえない」と判示しているのは、折角本件優待金は利益処分であるから法人の益金を構成すると判示しておきながら、この益金を処分して株主に支払うことは商法上は配当でないとしても、税法上は利益の配当に該当すると判示しなければ判決と理由と一致しないのにも拘らず、原判決は益金とその処分とを切放して前半の益金なりや否やの問題に対して判示しただけで、後半のその益金の処分が税法上の配当に当るかどうかの問題については何等判断を下しておらないのは審理不尽であると主張しているが、本件訴訟は優待金が益金を構成するかどうかの問題だけを取上げて提起されたものであつて、更にこの益金を株主に分配したときこれが配当となるかどうかについての判断を求める訴訟ではないから、原判決には何等審理不尽はない。

なお控訴人は本件優待金は借入金の利子とその性質が類似しているから、利子と同様損金と解さなければならないと主張しているようであるが、優待金が利子であるとすればその元本がなければならない筈であるが、本件の場合株式払込金の外に控訴会社は優待金の元本となるべき借入金をなした事実はないから、控訴人の主張は理由がない。惟うに控訴人は会社の内部負債である資本金と外部負債である社債又は借入金などを混同しておるのではないかと思うが、内部負債たる資本金の運用の対価は配当であり、外部負債たる借入金等の運用の対価は利子であり、前者は会社の損金ではなく、株主に対する利益処分であり、後者は会社の支払う利子として損金であることは今更説明するまでもない。

三、控訴人の控訴理由第三点について

控訴人は、第三点において、仮りに優待金が株主から会社に対して与えた利益の対価として支払われたものでないとしても、優待金を控訴会社の損金でないと判示したのは、法人税法第九条に規定する総損金の意義を曲解したものであると主張し、その理由として、そもそも法人の損金とは法人の純資産を減少する取引であつてその取引の結果が当該事業年度の純資産を絶対的に減少している場合であるから、本件優待金のように法人の純資産を絶対的に減少せしむる場合は当然損金であると解されなければならないのに、原判決がこれを損金でないと解したのは法人税法第九条の解釈を誤つたためであると主張しているようである。

しかし、これは控訴人こそ法人税法第九条を曲解するものである。

なるほど、法人税法第九条は法人の所得の意義について規定したものではあるが、その規定たるや簡単に過ぎ何が総益金であり、何が総損金であるかについては何等規定するところがなく解釈に一任している。そこで例えば東京高等裁判所も「法人税法第九条に所謂総益金とは(中略)総損金とは資本の払戻及び利益の処分以外において法人の純資産の減少となるべき一切の事実にもとずく経費その他の経済的損費を指すものである」(東京高等裁判所昭和二十六年三月三十一日判決)と判示している。

この判例と控訴人の総損金の定義とを比較すると、控訴人はこの判決のように「資本の払戻及び利益の処分以外において」という文言を用いないで、いきなり「従つて法人の純資産を減少する取引であつてその取引の結果が当該事業年度の純資産を絶対的に減少している場合であり、且つ総損金に算入しないとの明文がない事項は(中略)法九条一項の総損金を構成すると解さなければならないのである」云々と主張して、いやしくも法人の純資産を絶対的に減少せしむる一切の場合が法人の損金となると主張している点において前記判例と甚しく異つているが、判例の判示の方が正しいことはいうまでもない。惟うに、控訴人は会社の純資産の増加又は減少の原因のなかには会社とその出資者との関係における取引の結果生ずる純資産の増加及び減少と会社と出資者以外の第三者との関係における取引の結果生ずる純資産の増加及び減少との二つの場合があつて、このなかの第三者との間における取引の結果生ずる純資産の増加又は減少のみが法人の利益又は損金に影響を及ぼすものであることを看過しておるのではないかと思う。例えば対出資者関係における取引の結果会社の純資産が増加する場合の例は資本の払込である。この場合でも純資産の絶対的増加とはなるが、これを会社の益金の増加と解する人は一人もいない。これと同様に、対出資者関係における取引の結果会社の純資産が絶対的に減少する場合の例は資本の払戻とか利益の配当であるが、この場合これをもつて会社の損金であると解する人は一人もいない。それは何故であるかというに、そもそも会社の益金とか損金とかいうものは、会社純資産の増加又は減少の原因のなかでも対出資者関係における取引によるものを除外した純然たる第三者との関係において生じる純資産の増減のみが益金又は損金となるのである。これ前記東京高等裁判所の判決が「資本の払戻及び利益の処分以外において法人の純資産の減少となるべき場合一切の事実云々」と判示した所以である。

しかるに控訴人は苟くも会社の純資産を絶対的に減少せしむる取引はすべて損金発生の原因をなすものであるから、本件優待金の支払もまた損金たるを失わないと主張するのであるから、控訴人は会社の純資産の増減の原因をなす取引のなかに出資者たる資格において会社と取引をなす場合と第三者たる資格において会社と取引をなす場合の二つがあることを看過し、すべて第三者たる資格における取引であると主張する点に誤があるといわなければならない。

なお控訴人は、法人と個人とは所得の計算方法を根本的に異にしているから、個人の必要経費の観念をもつて直ちに法人の損金の意義を律することはできないと主張しておるが、そもそも法人所得の計算方法は恰も所得税法第九条第一項第四号に規定する事業所得の計算方法と同一であるのが原則であつて、若し或る人が営利事業を営む場合にこれを個人企業として発足したとすれば、この事業より生ずる所得の計算は所得税法第九条第一項第四号の事業所得の計算により総収入金から必要経費を控除したものによらなければならないのであるが、若しこれを法人企業として発足した場合には、法人税法第九条第一項の規定により総益金から総損金を控除したものによることとなるのであるが、所得計算の表現の方法こそ異つているけれどもこの両者は同一義に解するのが原則であるべき筈である。何となれば等しく営利事業でありながら、法人企業と個人企業と異るために、これより生ずる利益の計算方法を異にする理由がないからである。故に独逸の法人税法第六条第一項は、「所得とは何であるか及び所得は如何にして計算すべきかについては所得税法の定むるところ(中略)による」と規定して、法人所得の計算は原則として所得税法上の益金計算方法と同一である旨を規定しているのは、両者はその性質が同一であるからであつて、控訴人が主張するようにこの両者は根本的にその性質を異にするものではない。

四、むすび

これを要するに、本件問題の中心は優待金の支払が会社の損金即ち必要経費を構成するか否かの一点に帰着するのであるが、原判決が優待金の支払が会社の事業遂行上必要経費でないことは、優待金の支払がなくとも会社の事業である金銭貸付業の遂行には何等支障を来すものではないから、優待金は会社の損金ではないと判示したのは妥当の判決である。けだし金銭貸付業は信用ある貸付先を選んで貸付さえすればそれで充分であつて、本件のように融資を受けなかつた株主に優待金を支払わなければ会社の事業たる金銭貸付業が成り立たないわけのものではないから、優待金の支払は金銭貸付業として必要な経費ではないからである。

それにも拘らず控訴人が優待金の支払を融資請求権抛棄の代償であるから必要経費であると主張するのは何故であるかというに、これは優待金に対して強いて必要経費性を与えるために殊更工作された口実にすぎない。即ちその工作の第一歩として会社は株主でないと融資をしないと宣言したことである。金銭貸付業である以上は信用ある貸付先を選択してこれに対してのみ貸付けることは、金銭貸付業の守るべき鉄則であつて、若しこれを守らないで、苟くも株主である以上は信用の有無に拘らずだれにでも貸付ける旨を宣言し、控訴人のいわゆる融資請求権を各株主に与えたとすれば、結果は如何になるであろうか。いうまでもなくこのような営業方針を採つた結果は忽ち回収不能に陥り、いわゆる元も子もなくするのは当然であるから、苟くも思慮ある金銭貸付業者である以上は、このような無謀な営業方針を採る人は一人もいない筈である。しかるにこのようなわかりきつた理論を無視して控訴人が本件会社は株主に限り融資ししかも株主であればだれでも(信用の有無に拘らず)貸付けることを約束し、その結果各株主に融資請求権という一種の財産権が発生したと主張するのは何故であるかというに、これはかく主張しないと優待金が必要経費であることを説明することができぬからである。即ちかく説明すれば融資を受けない株主に優待金を支払うことは、折角株主が取得した特権たる融資請求権を抛棄せしめたことに対する代償であるから、会社は必要経費であると一応説明することになるからである。しかしながらこのような説明で優待金の必要経費性を説明することの如何に不自然であつて、われわれの生活経験を無視した説明であることは以上述べた通りである。

これ原判決が「融資する原告会社からすると貸付をなし得る資金を何人に貸付けようと原則として会社事業には関係のないことであり、従つて融資を受けないということが原告会社に対して何らかの特別な営業上の利益を与えており原告会社としてこれに対し何等かの対価を与うべきものということはできない」と判示している所以であつて、原判決が優待金の損金性を否認しているのはまことに妥当の判決であるといわなければならない。

このように優待金が会社の損金でないことが明かとなつた以上は、これを会社の損金に計上すべき理由がないから、これをもつて控訴会社の益金を構成すると判示した原判決はこれまた妥当の判決であるといわなければならない。

準備書面

控訴人 東光商事株式会社

被控訴人 関東信越国税局長

右当事者間の昭和三十五年(ネ)第一、〇七二号事件につき、被控訴人提出の準備書面に対し、控訴人は左の通り陳述する。

一、被控訴人は控訴人の控訴趣意書第一点の陳述に対し、

(イ) 本件優待金の支払義務の発生が支払を受くる者の株主となつた時期の如何を問わず、本件優待金は控訴会社の経費ではない。

(ロ) 控訴人は本件優待金を受くる権利の発生原因が株主となる以前に発生しているのみの理由でこれを会社の経費と主張しているのは了解に苦しむ。

(ハ) 営利会社においては株主でない第三者に無償で会社財産を交付することは考えられないから、優待金を支払うという契約は株主となることを停止条件となることを停止条件とする条件付契約であつて、あくまで株主に交付したものである。

従つて原判決が「株主が株主であるという理由によつて支払われたものである」との判旨には何等事実誤認の違法はないと主張している。

控訴人は被控訴人の指摘した前記(イ)乃至(ハ)に挙げた単純な事実のみによつて、本件優待金の支払が控訴会社の総損金を構成すると主張しているのではない。即ち控訴人は原判決が当事者間に争がないと指摘した原告の主張事実(請求原因第一項(一)(1)乃至(6))に基いて本件優待金の法人税法上の性格を判断しないで、唯本件優待金の支払われた結果のみによつて、株主が株主であるという理由でその持株の額面額に応じて支払われているから、法人税法上原告会社の所得を計算する際には原告会社の利益処分として益金に計上するのが相当であると判示している点を指摘して事実誤認だと主張するのであつて、この主張を明にするために、本件優待金は株主が株主であるという理由で支払われたものではなく、これを支払わなければならない法律原因は、株主の株主権の取得原因たる株式譲渡契約とは別に、株式譲受人たる個人と控訴会社との間における契約によつて控訴会社は本件優待金の支払債務が発生したのであると主張しているのである。換言すれば譲渡の目的となつた控訴会社の株式は譲渡契約の成立する以前控訴会社が増資手続によつて発行した株式を一括して引受けて払込んだ普通株式であつて、本件優待金を支払うという優先株式でも何でもないから、何人も自己の所有する以上の権利を譲渡することはできないという法理によつて株式を譲受けた者は特別の契約のないかぎり株主であるという理由のみで本件優待金の支払を請求する権利のないのは当然である。唯控訴会社としては増資株を一括引受けた特定人に貸付けた資金を株式譲受人から株式譲渡人(この場合特定株式引受人)に支払う株式代金をもつて弁済せしめ、控訴会社の運転資金を回収する経済的利益を得るために、被控訴人の所謂停止条件付契約によつて本件優待金を支払つたのである。その契約は会社の利益を交付するという契約でなくて、利益の有無に拘らず契約上の義務をして優待金を支払うという契約である。従つて優待金の支払は株主が株主であるという理由で支払うのでないことは株主の全部が優待金支払の請求権のないこと及び株式の譲渡契約は株式譲渡人と株式譲受人との間の契約であり、優待金支払の契約は控訴会社と一部の株式譲受人との間の契約であるように契約当事者を異にしていることにより自明の理である。

およそ会社が利益の有無に拘らず契約上の義義として支払わなければならないものは利益処分ではないから、法人税法上原則として総損金を構成するのは当然である。被控訴人は営利会社が株主でない第三者に無償で会社財産を交付することは考えられないと主張するが、営利会社は株主であると第三者であるとを問わず会社財産を無償で交付することは考えられない。しかし会社財産を交付するに足りる経済的利益の有無は会社自体が決定する問題であつて、法人税法上の問題としては資本醵出者たる株主の株主たる権利行使に対し会社の資産を利益処分として交付したかどうかの事実関係を明にすれば足るのであつて、会社資産を交付した相手方がたまたま株主であつた事実だけで、その法律原因の如何を問わず、無償で交付したものと認め悉く会社の経費ではないとの被控訴人の主張は本末顛倒の主張であつて、採るに足らない。

二、被控訴人は控訴人の控訴理由第二点の陳述を反駁して、

(イ) 本件控訴(訴訟の誤か)は優待金が益金を構成するかどうかの問題だけを取上げて提起された訴訟であつて、更にその益金を株主に分配したときこれが配当となるかどうかについて判断を求めている訴訟ではないから、原判決は何等審理不尽の点はない。

(ロ) 控訴人は本件優待金は借入金の利子とその性質が類似しているから、利子と同様に損金と解さなければならないと主張しているようである。

(ハ) 控訴人は会社の内部負債である資本金と外部負債である社債又は借入金とを混同しているため、利益処分である資本金の運用の対価たる配当と会社の損金である借入金運用の退化たる利子とを弁えていないと攻撃している。

本件訴訟が優待金の支払につき控訴会社の総損金を構成するかどうかの判断だけを求めていることは被控訴人主張のとおりであるが、唯如何なる理論的根拠で本件優待金の支払が総損金を構成しないのか、優待金は法人税法上如何なる性質のものであるから配当でないとしても益金に算入するのが相当であるのか、利益の配当でなくて会社の純資産を減少する方法で株主に対し実質的な利益を供与したとき、どうして法人税法第九条第一項の総損金としないで益金に計算するかの理由を明にしないまま、唯株主が株主であり、原告会社から融資を受けないという理由のみにより他には何らの実質的な理由なくしてその持株数に応じて支払を受けているものというべきであるとの認定だけで、税法上の根拠を判示しないのは審理不尽であり、如何に本件訴訟が優待金の益金構成を認めた行政処分の是非につき判断を求めた訴訟だとしても、法律の定むるところによつてのみ納税義務を負うと憲法に保障された納税義務の範囲を判断する判決としては許さるべきではない。

現行税法上会社が株主に対し会社財産を無償で供与したと認むる場合は、利益又は利息の配当、剰余金の分配、減資の場合における超過払戻、合併交付金、積立金をもつて増資に充当した場合であるが、此等は何れも実質上利益の配当に該当するから、法人税法上これを総損金としない理論的根拠を有するのである。従つて原判決が「利益配当でないとしてもこれを原告会社の利益処分として益金に算入するのが不当であるとはいえない」と判示するには、配当又は配当に準ずる場合の外に無償で会社の利益を株主に供与する場合があり、この場合法人税法上どの規定によつて総損金とならないかの理由を附すべきである。

控訴人のこの主張の正しいことは被控訴人自らも原審において本件優待金は税法上利益の配当であるから総損金を構成しないと主張してきたこと(判決理由三「被告は利益配当であるから益金であると主張するのであるが」……参照)及び東京地方裁判所昭和三十三年(行)第一九五号事件において被控訴人は本件優待金は税法上利益の配当であるから源泉徴収すべきものだと主張していることは被控訴人と雖否定し得ない事実であるから、本件が益金を株主に分配したときこれが配当となるかどうかについて判断を求めた訴訟ではないとの単純な理由から原判決には審理不尽、理由齟齬の違法はないと控訴人の主張を排斥しているのは、控訴人の了解に苦しむところである。

次に被控訴人は控訴人が本件優待金を利子に類似したものとして陳述をしているとして詳細に攻撃しているが、控訴人は唯実体の説明の便宜上原審においてはかかる語を使用したに止り、それが事件の本質ではないので、さまで反駁するかぎりではない。又控訴人は会社の内部負債と外部負債とを混同していると主張しているが、控訴人のどの主張がそれに該当するのか控訴人の陳述を今一度篤と反読して改めて指摘せられたい。

唯被控訴人が「内部負債たる資本金の運用の対価は配当であり、外部負債たる借入金等の運用の対価は利子であり、前者は会社の損金ではなく株主に対する利益処分であり、後者は会社の支払う利子として損金である」と主張しているのは、控訴人の主張と同趣旨で、原判決の審理不尽、理由齟齬の違法を認めていることを裏書しているのである。

何となれば、被控訴人の主張に従えば、株主に対し利益処分として会社財産を供与するものは資金運用の対価たる配当であるから、原判決が配当でないとしても利益処分として益金に計算するのが相当であるとの判示は、配当以外に利益処分たる資本金運用の対価があるということになり、被控訴人の主張と矛盾するからである。この主張から推すと、被控訴人は本件優待金が株主の株主たる地位に基いて支払われたのか、株主たる者と控訴会社との間の契約によつて支払われたかの区分を看過している結果、株式譲受人が株式譲渡人に支払つた株式代金を控訴会社の資本金と誤解しているのではないかを控訴人は疑うのである。

三、被控訴人は控訴人の控訴趣意書第三点について、

(イ) 控訴人は法人の純資産を絶対的に減少せしむる一切の場合が法人の損金になると主張しているのは法人税法第九条第一項の規定を曲解している。

(ロ) 控訴人は会社とその出資者との関係における取引の結果生ずる純資産の増加及び減少と、会社と出資者以外の第三者との関係における取引の結果生ずる純資産の増加及び減少との二つの場合のあることを看過している。

(ハ) 法人所得の計算方法も所得税法第九条第一項第四号に規定する事業所得の計算方法と同一であるのが原則であるから、本件優待金の支払を必要の経費でないとした原判決は違法ではない。

と控訴人の主張の片言双句を捉えて攻撃しているが、控訴人は控訴趣意書に明なように「法人の事業活動の結果として当該事業年度は新たに増加した純資産を原則として法人の課税標準たる所得として課税する建前であつて」と特に法人の資本関係による取引の結果生ずる純資産の増加又は減少を除外しているから、被控訴人の(イ)(ロ)での批難は全く見当違いである。控訴人は未だかつて会社がその出資者たる株主に資本を払戻したり又は利益を配当する場合の会社資産の絶対的減少と法人税法第九条第一項の総損金を構成するなどと表明したこともないし、又今後これを主張する意思もない。このことは控訴趣意書第一点、第二点において本件優待金が利益の配当とは認められないから総損金を構成すると主張していること、並びに控訴趣意書第三点中段「即ち法人税法第九条の立法趣旨」以下の陳述を反読すれば容易に理解し得ると信ずるから、これ以上の論議はここでは差控えるが、被控訴人が本件優待金の支払原因を会社と株主との間の出資関係における取引だと主張する趣旨だとすれば、控訴人の見解と著しく相違するのである。控訴人は本件優待金の支払原因たる法律関係は控訴会社と特定株式譲受人との間の契約によるのであつて、控訴会社の株主となつたことにより当然発生する株主権に属する利益配当請求権のようなものではないと主張するのであつて、この理由については第一項、第二項において詳細陳述したから再び繰返さないが、昭和三十五年(オ)第五四号源泉徴収所得税取消事件につき、最高裁判所が同年十月七日の判決において、本件優待金の支払につき「本件の株主優待金なるものは損益計算上利益の有無にかかわらず支払われるものであり株金額の出資に対する利益金として支払われるものとのみは断定し難く云々」と判示しているのは、本件優待金が出資関係によつて支払われたとの被控訴人の主張の誤りであることを立証して余りあるのである。

次に被控訴人の前記(ハ)の主張については控訴人は根本的に意見を異にするものである。法人税法第九条第一項の規定は、営利法人の本質に照しその事業活動の一切は営利目的に集約され、その活動の結果は各事業年度の所得として計算が明にせられるから、特に個人における事業所得の計算方法とは別個に「内国法人の各事業年度の所得は各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」との規範を定めたのであつて、その総益金、総損金につき法人税法に特に明文をもつて益金又は損金に算入、不算入を規定したもの以外は、すべて当該事業年度において純資産の絶対的増加の原因となつた取引を総益金とし、純資産の絶対的減少の原因となつた取引を総損金とする趣旨(勿論資本的取引並びに利益処分せられたもの等を除く)であつて、被控訴人の主張のように法人税法第九条第一項及び総益金、総損金につき同法上特別の制限規定を離れてその支出が必要の経費と認められるか否かの解釈によつて制限することは法第九条第一項の規定から許されない。これが法人税法第九条第一項が総益金、総損金につき一般的規範を原則的に規定した立法趣旨である。故にこの規範を無視した被控訴人の主張は被控訴人独自の見解であつて、法人税法上の法理ではない。殊に独逸法におけるように法人税法上の所得の意義並びに計算方法については所得税法の定むるところによるとの明文のない我が法人税法のもとにおいては、これをもつて範とするに足らない。

被控訴人の引用した昭和二十六年三月三十一日の東京高等裁判所の判例が「法人税法第九条に所謂(中略)総損金とは資本の払戻及び利益の処分以外において法人の純資産の減少となるべき一切の事実にもとずく経費その他の経済的損金を指すものである」と判示しているのは、控訴人のこの主張と軌を一にするものである。

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